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神戸地方裁判所 昭和58年(ワ)1211号 判決 1985年3月20日

原告(反訴被告)

合資会社原田パン

ほか一名

被告(反訴原告)

松田由子

主文

一  反訴被告(原告、以下原告という)合資会社原田パンは反訴原告(被告、以下被告という)に対し、金一三八万九、七〇七円及びこれに対する昭和五七年一一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告のその余の反訴請求を棄却する。

三  原告らの本訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告合資会社原田パンと被告との間においては、被告に生じた費用の四分の一を同原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告大谷四郎作と被告との間においては各自の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  本訴請求の趣旨

1  請求原因1項記載の不法行為(交通事故)につき、原告らは被告に対し、損害賠償債務の存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告合資会社原田パンは被告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する昭和五七年一一月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は同原告の負担とする。

3  仮執行宣言。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1  事故の発生

(一) 発生日時 昭和五七年一一月一八日午前八時四〇分ころ

(二) 発生場所 神戸市長田区六番町七丁目一の一先交差点

(三) 加害車 自家用普通貨物自動車(神戸四五さ三八三九)(以下原告車という)

保有者 原告 合資会社原田パン(以下原告会社という)

運転者 原告 大谷四郎作(以下原告大谷という)

(四) 被害車 自家用原動機付自転車(神戸須い九九五一)(以下被告車という)

被害者 (運転者)被告 松田由子

(五) 態様 出合頭衝突

本件事故は信号機による交通整理の行われていない左右の見とおしの困難な交差点に向つて西進していた原告車と、南進していた被告車が出合頭に衝突したものであり、原告大谷及び被告の双方の過失によつて発生したものである。

(イ) 原告大谷の過失

原告大谷は普通貨物自動車を運転して、本件東西道路を時速三〇キロメートルで西進中、信号機による交通整理の行なわれていない左右の見とおしの悪い交差点にさしかかつたところ、右前方七・九メートル(最短見とおし距離である)に、被告運転の原動機付自転車を発見し急制動をかけ、ハンドルを左に転把したが間に合わず、自車右前部を被告車に衝突転倒せしめて、被告を負傷させたものであり、減速徐行義務違反等の過失が存する。

(ロ) 被告の過失

被告は原動機付自転車を運転して、本件南北道路を時速一〇キロメートルで南進中前記交差点にさしかかつたのであるから、減速徐行して左方を充分注視していれば原告大谷と同様左方七・九メートルに原告車を発見して制動をかけて自車を停止せしめて衝突を回避できたものであるが、漫然前記速度で走行を続けたため本件事故が発生したものである。

以上のとおり、被告にも信号機による交通整理の行なわれていない左右の見とおしの悪い交差点における減速徐行義務違反、左方安全確認義務違反の過失が存するので本件事故発生に対する責任は、原、被告が平等に負担すべきである。

2  責任原因

原告会社については民法第七一五条の使用者責任及び自賠法第三条の運行供用者責任、原告大谷は民法第七〇九条の一般不法行為責任。

3  被告の受傷及び治療経過

(一) 受傷

頭部外傷Ⅱ型、頸部捻挫、腰部打撲捻挫、第五腰椎椎体骨折等

(二) 治療経過

応急措置

昭和五七年一一月一八日 谷口外科医院

入院

(1) 昭和五七年一一月一八日から同月二五日まで(八日)尾原病院

(2) 昭和五七年一一月二五日から同五八年一月九日まで(四六日)劉外科病院

通院

昭和五八年一月一〇日から同年七月二五日まで(通院実日数六八日)劉外科病院

脳波検査

昭和五八年七月二五日 松川神経科診療所

(三) 症状固定

被告は、昭和五八年七月二五日、後遺障害等級一二級一二号の後遺症を残して、症状固定した。

4  損害

(一) 治療費 金一〇〇万四、四六三円

(二) 付添看護費 金一万三、八〇〇円

入院中一日三、〇〇〇円の割合による付添看護の必要性の証明のある四六日分

(三) 入院雑費 金三万七、一〇〇円

一日七〇〇円の割合による入院日数合計五三日分

(五) 通院交通費 金二二万九、八五〇円

タクシー代実費

(五) 休業損害 金八九万五、八〇四円

事故前三ケ月の収入の平均日額金五、五六四円に、復職した昭和五八年四月二八日の前日まで一六一日を乗じて算出した。

(六) 入通院慰謝料 金八八万円

(七) 後遺症による逸失利益 金一〇一万三、四〇三円

労働能力喪失率を一四%、喪失期間を四年として、ホフマン係数を用い次のとおり計算した。

5,564円×365(日)×0.14×3.5643=101万3,403円

(八) 後遺症慰謝料 金一五〇万円

(九) 車両損 金一〇万三、三三〇円

右(一)ないし(九) 合計 金五六七万七、七五〇円

5  過失相殺

本件交通事故は、原、被告双方の過失が競合して発生したものであり、原告らは相当割合の過失相殺を主張するものであるが、被告の過失を小さく見積つて仮に三割としても、過失相殺後の被告の損害は次の計算式のとおり金三九七万四、四二五円となる。

567万7,750×0.7=397万4,425円

6  損害の填補

原告らは、右損害の填補として、合計金四三三万八、三六八円を、既に支払ずみである。

その内訳は次のとおりである。

(一) 治療費 金九八万七、二八八円

(二) 看護料 金一〇万五、〇〇〇円

(三) 通院費 金一二万八、三八〇円

(四) 諸雑費 金三万一、八〇〇円

(五) 文書料 金四、〇〇〇円

(六) 休業相害 金九九万一、九〇〇円

(七) 後遺症補償費 金二〇九万円

7  右5、6項のとおり、被告の損害は既に填補されており、過払の状況にあるにもかかわらず、被告は、既に受領している金員を上回る損害賠償債権を有すると主張している。

8  よつて、原告らは被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  請求原因1項の(一)ないし(四)の事実は認め、(五)の事実は争う。

2  同2項は認める。

3  同3項の事実は認める。

4  同4項のうち(一)、(四)の事実は認め、その余の事実は争う。

損害額は、反訴請求原因4項のとおりである。

5  同5項の事実は争う。

6  同6項の事実は認める。

7  同7項のうち、過払の点は争い、その余の事実は認める。

三  反訴請求原因

1  事故の発生 左記事故により被告は負傷した。

(一) 日時 昭和五七年一一月一八日午前八時四〇分ころ

(二) 場所 神戸市長田区六番町七丁目一の一先交差点

(三) 加害者 原告会社従業員大谷四郎作

(四) 態様 右記日時場所の交差点に於て、停止中の被告車に原告車が衝突したもの。

2  責任 自賠法第三条の責任

原告会社は自己の用に供するため原告車を所有していた。

3  被告の負傷の程度

本訴請求原因3項と同じ。

4  損害

(一) 付添看護費 金四七七、〇〇〇円

被告は歩行が困難であつたものであり、母が付添つた。

母は職業を持つており、一ケ月二四万円の収入があつたが、付添のためそれを失つた。

よつて五三日間職業付添人の日給九、〇〇〇円として四七七、〇〇〇円。

(二) 入院雑費 金五三、〇〇〇円

五三日間 一日一、〇〇〇円

(三) 休業損害 金一、〇九二、一〇九円

三ケ月の平均賃金五、五六四円と他に夏に一ケ月、年末に一・五ケ月のボーナスが約束されていたので、これが一年間三〇万円となり、これを右日額になおして加算すると、一日が六、三八五円である。

なお、被告は準看護婦の資格を有している。

(1) 一六一日間 金一、〇二七、九八五円

(2) 昭和五八年四月二八日より昭和五八年六月八日まで、残業出来ないことによる不足金一日一、五六四円として四一日間計六四、一二四円

(四) 入院通院慰謝料 金一五〇万円

寝起き出来ない状態と骨折であり、単なるむちうちと異なる。

(五) 後遺症による逸失利益金七、六七八、五二〇円、労働能力喪失率一四%、現在二一歳

期間六七歳まで、四六年間としてホフマンにて計算すると

六、三八五×三六五日×〇・一四%×二三・五三四=七、六七八、五二〇円

(六) 後遺症慰謝料 金二〇〇万円

本件の場合女性の足にケロイドが残つており骨が欠けていること、重いものが持てないこと、腰の痛みで仕事が満足に出来ないこと、コルセツトを常時はめる必要あること、看護婦としての資格があるのに残業が困難なことからその働きが出来ないこと、など考え合わせると金二〇〇万円以上である。

(七) 治療費 金一〇〇万四、四六三円

(八) 通院交通費 金二二万九、八五〇円

5 損益相殺

本訴請求原因6項の(二)、(四)、(六)、(七)の計三、二一八、七〇〇〇円が相殺の対象となるので、前項(一)ないし(六)の合計金一二、八〇〇、六二九円より差引くと金九、五八一、九二九円となる。

6 弁護士費用の一部として五〇万円。

7 よつて合計一、〇〇八万六二九円となるところ、被告としては原告会社に対し、その内金六〇〇万円と事故日より完済まで民法所定年五分の割合による損害金を請求するため反訴を提起する。

四 反訴請求原因に対する認否

1 請求原因1項の(一)ないし(三)の事実は認め、(四)の事実は争う。

2 同2項は認める。

3 同3項の事実は認める。

4 同4項のうち、(七)、(八)の事実は認め、その余の事実は争う。

5 同5項は争う。

6 同6項は争う。

五  反訴抗弁(過失相殺)

本訴請求原因1項の(五)及び5項のとおり。

六  反訴抗弁に対する認否

争う。

本件交差点は、制限速度に於て原告車が二〇キロ(最低速道路である)であり、且つ一方通行であり、被告車のは四〇キロ(通常道路である)であることからして、道路そのものに全く平等の条件ではないことが明らかである。むしろ、その差は著しく、かかる場合は被告車の道路を優先道路として考えるべきである。

もしそうでないとしても、二〇キロとされたのはその道路が最も注意の上進行すべき事を示しているのであつて、その注意義務は大なるものがある。

さらに原告車は制限速度違反という運行に於て最も重大な過失及び先方不注意という過失を犯しているものである。

従つて、過失割合の規準からすれば、単車にはそのほとんどの過失がないこととならざるをえない。

すなわち、基本が九〇対一〇であり、速度違反を認めると単車は過失がないことともなる。

まして、加害者の速度違反は明らかであり、それが事故の主な原因であることは、その接触状況により明らかな本件にあつては、なおさらである。

本来過失相殺はないという主張をするが、もし仮にあるとすれば、総損害の中より計算されたい。

第三証拠〔略〕

理由

一  本訴請求原因1項の(一)ないし(四)及び反訴請求原因1項の(一)ないし(三)の事実(事故の発生)は、当事者間に争いがない。

二  そこで本件事故の態様及び過失割合について検討する。

右争いのない事実に甲第一一ないし一五号証、第二〇、第二一号証を総合すれば、次の1ないし5の事実が認められ、これに反する証人松田幸一の証言、被告本人尋問の結果はたやすく措信できない。

1  本件交通事故は、原告車が、本件交差点を東方より西方に直進するに際し、北方より南方に進行してきた被告車と交差点中央よりやや西寄り付近で衝突したものであること、

2  本件交差点は、信号機による交通整理の行われていない、左方の見とおしの悪い交差点であること、

3  同交差点付近は、東西道路については、その道路幅が約六・二メートル、うち車両通行部分の幅員が約五メートルであり、西行一方通行路に指定され、制限速度は毎時二〇キロメートルであり、南北道路については、その道路幅が約五・三メートルの相互交通路であり、制限速度は毎時四〇キロメートルであること、

4  原告大谷は、普通貨物自動車を運転して、時速約三〇キロメートルで本件交差点に進入せんとしたところ、右前方約七・九メートル(最短見とおし距離である)に被告車を発見し、危険を感じて急ブレーキをかけ、ハンドルを左に切つて衝突を避けんとしたが及ばず、同交差点内で自車右前部を被告車に衝突させ、被告を転倒負傷させたこと、

5  被告は原動機付自転車を運転して、時速約一〇キロメートルで本件交差点を直進せんとしたが、そのままの速度を維持したまま、左方の安全を確認することなく同交差点に進入したため、同交差点内で原告車と衝突したこと、

以上の事実によれば、本件事故発生について、原告大谷に減速徐行義務違反の過失があつたことは明らかであるが、他方被告にも左方安全不確認義務違反の不注意があつたものといわざるをえず、これに道路状況、双方の車両の種類及び速度、原告車が左方車であることなどを考慮すると、本件賠償額の算定にあたつては、被告の損害に三〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

三  本訴請求原因2、3項及び反訴請求原因2、3項(責任原因、被告の受傷及び治療経過)は、当事者間に争いがない。

四  そこで、被告に生じた損害について判断する。

1  治療費 金一〇〇万四、四六三円

当事者間に争いがない。

2  付添看護費 金三三万六、〇〇〇円

甲第四号証の一、第五号証の一によれば、医師が付添看護を必要と認めた日数は四八日間であり、乙第一号証、被告本人尋問の結果によれば、その間被告の母が付添つたが、同女は有職者であつて、月金二四万円程度の収入を得ていたことが認められるので、これらの事情を考慮し、付添看護費は一日金七、〇〇〇円とするのが相当であるから、四八日分は金三三万六、〇〇〇となる。

7000×48=336000

3  入院雑費 金五万三、〇〇〇円

入院期間が五三日間であることは当事者間に争いがなく、入院雑費は一日金一、〇〇〇円とするのが相当であるから、五三日分は金五万三、〇〇〇円となる。

1000×53=53000

4  通院交通費 金二二万九、八五〇円

当事者間に争いがない。

5  休業損害等 金一〇八万一、一六一円

乙第三号証、被告本人尋問の結果によれば、被告の休業期間は一六一日であり、甲第一〇号証、乙第三号証によれば、事故前三ケ月の平均賃金は一日当り金五、五六四円(円未満切捨)であり、昭和五七年度のボーナスは年間二七万五、〇〇〇円(基本給一一万円として)、一日当り七五三円(円未満切捨)であることが認められるから、休業損害は金一〇一万七、〇三七円となる。

(5564+753)×161=1017037

さらに甲第一〇号証、乙第三号証によれば、被告は復職後も体調が悪く、被告主張にかかる四一日間は残業することができず、そのため一日当り金一、五六四円、四一日分金六万四、一二四円の収入を失つたことが認められる。

1564×41=64124

以上を合計すると金一〇八万一、一六一円となる。

6  入通院慰謝料 金一三〇万円

本件にあらわれた諸般の事情を考慮し、入通院慰謝料は金一三〇万円が相当である。

7  後遺症による逸失利益 金二一二万七、〇六三円

被告が、昭和五八年七月二五日、後遺障害等級一二級一二号の後遺症を残して症状固定したことは当事者間に争いがなく、労働能力喪失率は一四パーセントと認めるのが相当である。

しかして、甲第九号証、乙第四号証、証人松田幸一の証言、被告本人尋問の結果を総合すれば、労働能力低下の存続期間は八年間とするのが相当である。

また甲第一〇号証、乙第三号証によれば、被告の年間収入は金二三〇万五、八六〇円であることが認められる。

よつて労働能力低下による逸失利益は金二一二万七、〇六三円となる。

8  後遺症慰謝料 金一八八万円

後遺症の部位、程度、被告の職業資格などを総合考慮すると金一八八万円が相当である。

以上の1から8までの損害を合計すると、金八〇一万一、五三七円となる(なお、車両損害額についてはその立証がない。)。

しかしながら、被告にも前記のような不注意があるから、前記理由により三〇パーセントの過失相殺をすると、損害額は金五六〇万八〇七五円となる。

五  しかるに、被告が本件損害の填補として合計金四三三万八、三六八円を受取つたことは当事者間に争いがないから、これを右損害額から差引くと、残額は金一二六万九七〇円となる(なお、当裁判所は、その支払にかかる金員の個々の費目には拘束されずその合計額について本件損害の填補がなされているものと解する。)

六  弁護士費用 金一二万円

本件事案の性質、訴訟経過、前記認容額等に鑑みると、弁護士費用は金一二万円と認めるのが相当である。

従つて、前記残額に右弁護士費用を加算すると、合計金一三八万九、七〇七円となる。

七  結論

よつて、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は、原告会社に対し金一三八万九、七〇七円及びこれに対する事故発生日である昭和五七年一一月一七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

なお、仮執行宣言の申立についてはその必要がないものと認めこれを却下する。

(裁判官 寺田幸雄)

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